2017年03月23日

「李下に冠を正さず」を怠った人


 「李下に冠を正さず」という教えがある。
 これは、中国の古事から来たというが、李(すもも)の成っている木の下で手を挙げて頭に被っている冠(かんむり)の曲がっているのを直すと、李の実を盗むのかと疑われることもあるから他人の嫌疑を受けやすい行為は避けるようにせよとの教えである。
 2017年2月、内閣総理大臣安倍晋三氏を直撃した、妻である昭恵夫人が大阪府豊中市に4月開校予定の私立小学校「瑞穂の国小学院」の名誉校長に就任するという行為は正しくそれであった。
 この行為は念願の安保関連法制を成立させて日本国を戦争のできる国にして、今年は米国の新大統領トランプ氏にすっかり気に入れられて仲良しとなり、さらに戦前の治安維持法の復活ともいうべき共謀罪の成立を目の前にした得意絶頂の安倍晋三氏が政権の座を失いかねない状況に陥いらせた。
 安倍晋三氏は大阪府の豊中市にある国有地を幼稚園児に教育勅語を読ませるという信じられないことをしている私立幼稚園の理事長籠池泰典氏に時価の10分の1で払い下げることにも関係したのではないかという疑いを持たれて苦境に陥った。
 安倍晋三氏当人がどうこうしたのではなく、愛妻である昭恵夫人の軽率な振る舞いに原因があると言えるが、そうはいってもその軽率な行動を許した亭主である安倍晋三氏に責任があるといえばあると言える。
 もっとも、国有地の価格を不当に安くしたのは財務省の役人が内閣総理大臣の奥様が新設する予定の小学校の名誉校長になるということを忖度したところに原因があると言える。
 財務省の役人と幼稚園の理事長との間に政治家が介在したことも考えられるが、何と言っても今や日本国の独裁者といってもよい存在になった安倍氏が「李下に冠を正さず」という教えを実践しなかったことにある。
 昭恵さんには悪いが、夫が内閣総理大臣になったので自分も何か偉くなったように錯覚してしまったようである。
 昭恵さんは「講演をして欲しい」とか、「名誉校長になって欲しい」という話があった時、冷静に自分は一体何者なのかと自問自答したら、夫は内閣総理大臣という権力者だが、自分はその人の妻であるに過ぎない。教育者として何かがある訳ではない。普通の常識があれば、自分は利用されているに違いないということが分かったのではないかと思う。
 昭恵さんは国有財産を籠池泰典というユニークな人物に超格安の価格で払い下げるのに貢献したことは確かであり、今回の1件は総理大臣の犯罪と言われても仕方ない。

 都知事に小池百合子氏が登場して、築地市場の豊洲移転の是非がクローズアップされて、移転を決めた元都知事の石原慎太郎氏の責任が問われるようになったが、この人こそ「李下に冠を正さず」を詰問されてもおかしくない人物である。
 自分は専門家ではないから下から上がって来た案件に目を通すことなく、適当に都知事印を押すように指示していたという話であるが、「李下に冠を正さず」という教えに背く行為をいくつもしているが、代表的なものは慎太郎氏本人が「トップダウンだ。俺が考えついた」と明言している、東京都の行っている文化事業「トーキョーワンダーサイト(TWS)」である。
 TWSは若手芸術家の育成を掲げた東京都の文化事業であった。慎太郎氏は都知事に就任以来、都現代美術館など文化施設の補助金を軒並み3~4割カットしたが、TWSだけは2002年度は4400万円だった補助金を4年後には10倍の4億4000万円にした。慎太郎氏はTWSの館長に慎太郎氏の4男で画家の延啓氏が米国留学時代に知り合ったという建築家の今村有策氏を起用し、副館長に今村氏夫人を据えた。そして4男の延啓氏を都の職員扱いにして渡航費を公費から支出させて海外に何度も出張させている。延啓氏に画家としての実績がどの程度あるかわからないが、このTWSは四男のための事業と評されている。
 JRお茶の水駅の近くにあるTWS本郷の建物の中にあるステンドグラスに延啓氏の絵が飾られている。複数ある原画の中から延啓氏の絵を選んだのは今村氏であった。
 今村氏は延啓氏に「報酬は払っていない」というが公費から制作費として300万円が支出されている。経営破綻に追い込まれた新銀行東京にも慎太郎氏側から「殺風景だから買ったらどうだ」と勧められて延啓氏の絵画3点が納められている。
 都政の私物化と批判する声に「余人をもって代え難かったら使いますよ。当たり前じゃないですか。どこに違法性があるのですか。息子は立派な芸術家です」とのたまわれた。
 自分の子供を「余人をもって代え難い」と評する親バカぶりにあきれるしかない。
 小池都知事は「石原さんから『四男のイベントに予算を付けたが、猪瀬さんが知事になって減らされた。都知事になったら予算を復活してほしい』と頼まれた」と暴露している。
 慎太郎氏の振る舞いは「李下に冠を正さず」なんてものではなく、公私混同の最たるものであり、犯罪行為といっても差し支えないと思う。
 恐らく自分が指示したわけではない、自分の知らないところで行われたと弁明するだろうが、部下が勝手に気を利かせることのないように戒めるのも上位者の責任である。

 上位者があまりに偉くなるとご当人が気遣かないうちに、下位者が勝手に気を利かせてしまう、いわゆる忖度(そんたく)することがある。
 このことは政治家だけでなく、経済人でも同様なことがいえる。
 エレクトロニクス部品メーカー『K』の創業者であるI氏は著名な経営者であるが、I氏の創業した『K』の本社は以前はK市Y区にあって「Y駅」から歩いて行けるところにあったが、現在は同市F区Tというところにある。一度お伺いしたことがあるが、最寄りの「T駅」から同社まで相当な距離があり、仕方がないのでタクシーを利用してお伺いした。今はどうか分からないが私がお伺いした10数年前は同社の周りには倉庫がいくつかあるぐらいで、どう考えても交通の便はよろしくないような気がした。従業員はどのような手段で通勤しているのかなと思い、案内してくれた知り合いに「社員の皆さんはマイカー通勤ですか?」と聞いたら、「幹部用には駐車場が地下にありますが、一般従業員用の駐車場はありません。よってバスないし自転車で通勤しています」と言われる。
 これだけ辺鄙なところに移動したら駐車場を用意するのは当然と思っていただけに、これには信じられない思いがした。
 「なぜこんな交通の便がよろしくないところに本社を移したのですか?」と聞くと、知り合いは苦笑を浮かべながら「I会長のご自宅があちらにあります」とその方向を指差す。
 「なるほど」と納得した。
 私がお伺いした時はI氏はすでに会長職を退いていたが、Y区の本社が手狭になって、どこかに本社を移転させなければいけないと考えた時に、役員の皆さんが1月に一度姿を表すかどうか分からない創業者のI氏の気持ちを忖度して、I氏が歩いても来れるこの地に本社を移したのだろうと勝手に推測した。
 移転の話があった時にI氏は「李下に冠を正さず」を自問自答して、「確かに私には便利になるが、従業員の多くは不便になるのは自明のことだから再考しなさい」と言うべきであった。
 「親の心、子知らず」という言葉があるが、これは親は望んでいないのに子供の方でこのようにしたら親は喜ぶだろうと考えて勝手なことをしてしまい、その結果、親に迷惑をかけるというものだが、本社を交通の便の悪い場所へ移転したのは「親の心、子知らず」の行為ではなかったかと思う。
 もっともそれを許してしまったI氏の心にも隙があり、「李下に冠を正さず」という教えを失念してしまったのではないかと思う。
 I氏に限らず、このようなことはよくあるので、トップたるもの、常に自分の立場を自覚して行動するべきである。

 あまりにも偉くなってしまうと周りの人間が直言するのを遠慮するようになり、耳障りに感じることを言わなくなってしまうものである。忖度するということは必ずしも悪いことではないが、下位者にお追従ともいうべき言動があったら上位者は注意しなければいけない。
 とにかく「李下に冠を正さず」という教訓があるので、ちやほやされるような立場に身を置くようになったら、自分及び家族がいささかも疑いを持たれるようなことは避けるべきである。
                                   
posted by 今井繁之 at 10:15| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする