2019年02月11日

40年前の話がよみがえって来た

            
 2019年1月18日、自分の事務所でのんびりしていたところに、「講談社の週刊現代の記者をしているHと申しますが、今井さんがご存じの鳥山寛恕さんのことで取材させていただきたいが、ご都合はいかがでしょうか?」という電話が突然入った。
 鳥山寛恕さんは私が今日の研修講師をする前に勤務していたソニーの子会社である桜電気株式会社(現ソニーイーエムシーエス株式会社木更津サイト)の創業者社長であった方で、私にとっては大恩人の一人である。ただ、鳥山さんは今から丸40年前の1979年に亡くなっており、その方をなぜ、今、週刊誌が取り上げるのか首を捻った。そもそも鳥山さんと私が上司と部下の関係ということを記者がなぜ知っているのかと疑問を感じた。 
 そこでHさんに問うと、「今井さんの書かれたブログを読ませていただき、今井さんが鳥山さんのことを色々とご存じのことを知ったからです」と言う。
 確かに私は鳥山さんのことを敬愛する上司としてこのブログに複数回書いている。
 それなら取材に応じてもよいかもしれないと考えて、H記者に会うことにした。
 翌週、お会いしてお話を聞くと、取材目的は、世間にあまり知られていないが、ソニーの本社内の敷地に神社があり、その神社のことを記事にしたいので話を聞かせてもらいたいのだと言う。「その神社と鳥山さんがどんな関係があるのか?」と問うと、私はまったく知らなかったが、社内のごくわずかな人はそこを「ソニー神社」と呼んでおり、その神社には在社中に亡くなった人(物故者)を慰霊してあるが、その神社を作るきっかけになったのが私の上司であった鳥山さんの死であったという。初耳であった。
 神社を作ろうと言い出したのはソニーの創業者の一人である盛田昭夫会長で、1993年に神社が出来たが、言い出した盛田会長は1999年に鬼籍の人となった。後継の経営陣の間で、いつまでもこのような神社を社内に設けるのはどうかということになり、2018年4月に神社を取り壊したという。
 それを聞いた神社建立に協力した宮司の高橋正宣氏は激怒して、ソニーを訴えて、裁判沙汰になっており、それを記事にする予定だが、その記事を書くに当たって、その神社の物故者にソニーの社員ではない子会社の社長であった鳥山さんの名前がトップにあり、それに疑問を感じて、なぜそのようになったのか、鳥山さんの死に何があったのかを私に聞きたいということであった。
 事情の分かった私は鳥山さんという立派な経営者のいたことを世に知らしめるよい機会と考えて、鳥山さんが突然亡くなった事故について次のような事柄を話した。

 今から40年前の1979年の3月16日、私が勤務していたソニーの子会社である桜電気株式会社に、ソニー本社から当時、本社の副社長であった大賀典雄氏(後のソニー本社の代表取締役社長)以下幹部がヘリコプターに乗って工場視察に見えた。
 そのヘリコプターが折からの強風に煽られて、不自然な形で会社のグラウンドに着陸した。
 ヘリにはパイロットを含めて4名が乗っており、ヘリの後部席に座っていた大賀氏に同行してきたソニー本社の役員である白倉氏と馬淵氏はヘリから出てきたが、パイロット席にいた大賀氏がなかなか出て来れない。ヘリの後部から煙が出ており、ヘリが爆発するかもしれない、何としても大賀さんをヘリから救出しようと出迎えた鳥山さん以下の3名が救出に向かい、大柄な大賀氏の体をヘリから引きずり出した。大賀氏を外に出した関係で機体が軽くなったので、それまで土に刺さって静止していたローターが動き、救出の先頭にいた鳥山さんの頭を直撃して死に至らしめた。
 鳥山さん以下の3名が命懸けで大賀氏の救出に努めたので、大賀氏は外に出ることができて命は助かり、それと引き換えのように鳥山さんは命を失った。
 ヘリから救出された大賀氏は事の一部始終を上司である盛田会長にすぐ報告しなければいけないということで、墜落現場からよろよろと歩いてきたが、そこに居合わせた私に 「きみ、どこかに電話はないか? 貸してくれ」と言う。メガネも吹っ飛び、乱れた服装だったので、私にはこの人はいったい誰なのかが一瞬分からなかったが、すぐにこの人は大賀副社長だろうと察した。私は電話のある場所に案内して、盛田会長との会話を傍らで聞くともなしに聞いていた。
 「大賀です。大変なことになりました。乗ってきたヘリが強風に煽られて着陸ミスをしてしまいました。出迎えてくれたこちらの社長が亡くなりました」
 この直後に電話の向こうで盛田会長がどのように言っているか推測するしかないが、大賀氏の答えから推測すると、次のような問いを発したのではないかと思う。
 「君が操縦していたのか?」
 「いや、私ではありません。今回は私は操縦していません」
 その後、どのようなやり取りであったかは忘れてしまったが、「いや、私ではありません」と大賀氏が大きな声で答えたのだけは鮮やかに覚えている。
 盛田会長は大賀氏がヘリコプターのパイロットの免許を持っており、これまでもしばしば操縦していた大賀氏が今回も操縦桿を握って、この事故を引き起こしたのではないかと思ってこのような問い掛けをしたものと思われる。
 盛田会長は次期社長として考えていた大賀氏に傷がつくことを懸念したものと思われる。 盛田会長との電話を終えたところで、大賀氏はその場に倒れ込み、私と同僚の一人が肩を貸し、車に乗せ、近くの整骨病院に連れて行き、診察してもらった。
 死亡事故の発生とソニーの次期社長と目されていた大賀氏の操縦ミスではないかということで、マスコミが病院に殺到したので、整骨病院の裏口から脱出させて、急遽、ソニー本社が手配したクルマで都内の済生会中央病院に向かった。

 週刊現代の記者には2時間前後、上記のことを含めてあれこれお話した。
早速、その翌週の2月9日発売の週刊現代に「バチが当たる 盛田昭夫の作った「ソニー神社」が現経営陣に壊されるまで」というタイトル付きで記事が掲載された。
 同誌によると、この事故から12年後の1991年12月に盛田会長は常陸国出雲大社の宮司の高橋氏に「社員の病気や事故が多いので墓や記念碑を作りたい」と相談したという。それもできるだけ早く建立したいという。そこで盛田会長に真意を確認すると、前述したヘリコプター事故で鳥山氏が死亡したことと、その事故から3年半後にソニーの第4代社長を務めた岩間和夫氏が63歳の若さで病死したことから、ヘリコプター事故と岩間氏の死去のあいだには因果関係があるのではないか、ヘリ事故で死亡した鳥山氏の祟りではないかと考えたからだという。
 裁判で明らかになった宮司の訴状には「盛田会長の切望した慰霊碑建立の最大の目的はヘリ事故の被害者である鳥山寛恕氏の御霊(怨霊)を鎮め、さらにその後においても被告(ソニー)を様々な災いから末永く守ることにあった」と記載されている。
 1993年5月に神殿が完成し、同月7日に物故社員招魂慰霊祭が行われ、物故社員の中にソニー社員でなかった鳥山寛恕氏の名前があったという。

 今回の「週刊現代」に大賀氏は日経の『私の履歴書』に「乗っていたヘリコプターが墜落したが、操縦していたのはパイロットであった」と語っており、これについてはそれ以前に発売された雑誌「諸君」にジャーナリストの有沢創司の取材に応じたものと思われるが、「操縦していたのは自分ではない、鳥山氏が墜落したヘリコプターに不用意に近付いてきたので事故が起きたのだ」と語っている。
 今回の「週刊現代」で私が大賀氏を機内から救出するのと引き換えの形で鳥山氏の命は奪われたということを語ったので、真実が明らかになったと思う。
 盛田会長が鳥山氏にこだわったのはヘリの操縦桿を握っていたのは大賀氏であり、死亡事故を起こしたのは大賀氏に責任があったと考えたからではないかという気がして来た。
 事故の直後の警察関係者の追及に、私は「大賀氏は『私ではありません。今回は私は操縦していません』」と大きな声で盛田会長に報告しました。あの興奮した状態でウソをつくことは考えられません」と話したので、警察関係者も納得してくれて、それ以上の追及はなかったが、今回の慰霊碑騒ぎで果たして真実はどうであったかと疑問が沸いてきた。
 慰霊碑に「大願意」と題した漢文が納められているというが、そこにソニー株式会社代表取締役会長 盛田昭夫と共に後継者 大賀典雄という署名があるというから、盛田会長は鳥山氏が亡くなった事故の責任は大賀氏にあったと認識していたのだろうと思った。
 週刊誌に、宮司の高橋さんは「鳥山さんは館山電子という会社の社長である」と告げられ、「館山電子の会社変遷と事故」と記されたメモが渡されたという話が出ていたので、私は奇異に思った。鳥山さんは従業員1200名前後を雇用していた桜電気株式会社の社長であり、館山電子という会社は桜電気全額出資の会社であるが、千葉県館山市に設立した従業員50名前後の会社であり、会社はこのヘリ事故の数年後には消滅している。
 事故のことを追跡調査されることを嫌って桜電気という名前を出さなかったのかなと思うが、大賀氏も故人となったのだから真実が明らかになっても良いのではないかと思う。
 今回の「週刊現代」の記事が出るまでヘリの事故の真実を知らなかった現経営陣の皆さんが、「ソニー神社」を撤去することにそれほど逡巡しなかったのは分かる気がする。

 もう40年前の話であり、鳥山寛恕氏はお名前の通り、寛(ひろ)く恕(ゆる)す人であり、お墓の下で「何を騒いでいるのか?」と苦笑を浮かべているかと思う。
 2019年の年始に鳥山氏の眠っている鎌倉霊園にあるお墓にお参りしたが、命日の3月16日に記事の載っていた『週刊現代』を持参して、下界ではこんな騒ぎがありましたと報告しようと思っている。

posted by 今井繁之 at 16:35| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする