2019年08月10日

『甘い資産形成話にはご用心』

 
 2019年6月3日に金融庁は「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では年金だけに頼って生活していると毎月の不足額は平均で約5万円となります。まだ20年~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1300万円~2000万円になります。よって投資などで資産形成を進めるのがよろしいですよ」という報告書を発表をした。
 「年金」だけではバラ色ではないというのは紛れもない事実であるが、金融庁が資産形成に投資を勧めるというのは、私の不勉強だが、初めてのことではないかと思う。それも積み立てNISAとかiDeCoといった具体的商品を挙げて投資しなさいというのも異常である。 
この金融庁の資産形成の呼び掛けに大変喜んでいる業界があるという。
 銀行、証券会社、郵便局等の金融機関及び個人向けの金融商品を扱っている業者である。
 それらの皆さんは「年金頼みはダメです。銀行に普通預金あるいは定期預金で預けていても金利なんてほとんど付かないから、もっと儲かる金融商品に投資しなければといけません。そのお手伝いを私どもがさせていただきます」と呼び掛けている。
長年勤めた会社を定年退職して、まずまずの退職金をもらった人が一番の狙い目みたいで、そういった人には退職金が振り込まれた銀行から甘い話が持ち掛けられる。
 その勧めに乗って投資信託などに手を出したら退職金の大半は消えてしまう可能性が大である。なぜそんなことを言えるかというと、私自身がそのような苦い体験があるからである。何かのご参考なればと考えて、お恥ずかしながら私の失敗談を以下に記す。

 2006年の秋、私は代表取締役の座を一時期、娘に譲って、シンキングマネジメント研究所の代表の座を降りたことがある。まずまずの退職金をM銀行の普通預金に入れたが、しばらくそのままにしていたところ、M銀行のお客様相談室のH氏が自宅を訪ねてきた。H氏は「今、退職金を定期預金にすると特別な制度があって1%の金利が付くのでそれをお勧めします。6カ月で約20万円の利息が付きます」と言う。低金利の今日、1%は高い金利なので、勧めに従って定期預金にすることにした。それから6カ月後、H氏から連絡が入り、「6カ月の定期預金の期限が来ました。お約束通り20万円の利息が付いたかと思いますが、この後、いかがいたしますか? 資産の有効活用ということで投資信託(ファンド)に投資されたらいかがですか?」と勧められた。
 私は投資信託に関してハイリスク・ハイリターンの商品という認識があったが、H氏は、「国内外の株式や債券、不動産など、多岐にわたる資産を組み入れて運用しており、リスク分散がされているのでご心配されるようなことはありません」と言われる。20万円も儲けさせてもらったこともあり、H氏の「投資信託」の説明を聞くことにした。そして危険ではないという話を真に受けて、3分の1は定期預金にして、後の3分の2は投資信託として運用してもらうことにした。不安はあったが、天下のM銀行が勧めるのだから大丈夫だろう、途中で危険信号が出たら、H氏がどうしたらよいかというアドバイスをしてくれるだろうという甘い期待もあった。
 それからしばらくすると預けた信託資産がどのように推移しているかという「収益分配金再投資のご案内」(兼 支払通知書)が送られて来た。
 2007年の5月から9月までの半年間の推移を見ると、再投資後残高の欄の数字は着実に毎月増えている。分配金の欄を見ると5月から9月のそれをトータルすると100万円を超えている。
 私はH氏に進められた投資信託に投資してよかった、半年で100万円も儲かるなんてありがたいと単純に喜んだ。しかし、その後、M銀行から送られてきた「お取引レポート」という資料を見ると取得価格に対して9月末の評価金額は大幅なマイナスになっている。何かおかしい、自分はひょっとしたら損しているのではないのかと思われてきたので、M銀行に行き、H氏に説明を求めた。
 「私の信託資産の今現在の状況はどうなっているのか正確なことを教えてほしい」と頼むと、「現在は元金割れをしています。でもこんなことはよくあることです。今は底かもしれませんので投資信託は長い目で見て投資された方がよろしいかと思います」と過去のデータを示しながら説明してくれる。
 「あなたにとってはよくあることでも素人の私にとっては大問題だ。この毎月送られてくる『収益分配金再投資のご案内』では再投資残高が増え、さらに分配金があるのに私の評価金額はなぜマイナスになるの?」
 「よく見て下さい。その再投資残高の数字は金額ではありません。それは投資口数であり、一口当たりの再投資の評価金額の上がり下がりによって信託資産は変わってきます。5月の一口当たりの再投資の評価金額は12,000円でしたが、9月には10,000円と下がっています。分配金はあっても相殺されてしまってマイナスになったのです」
 「あなたのいう理屈はよく分からないが、しかし、なぜこんなまぎらわしい表示をするの? 口数ではなく、誰にでも分かるように最初に投資したお金が今現在どの程度の金額になっているかを親切に知らせてくれたら、私のような素人でも投資を続けるべきかどうかの判断がつくが、これでは分からない。おたくでは、金額表示してあると、お客様は自分の信託資産が減っていることがすぐ分かり、大騒ぎするかもしれないということで、素人には実態が分からないように工夫しているのではないの?」と言うと「そんなことはありません。とにかくこういったものは株価と同じで一時的に上がったり下がったりすることはありますので心配は要りません」という答えが返って来た。
 私はH氏の弁を半信半疑ながら一応信用して、しばらくすれば元にもどるかもしれない、と考えてしばらく様子を見ることにしたのが大失敗であった。
 10月に入って送られてきた「お取引レポート」を見るとさらにマイナス幅は広がっている。ところが「収益分配金再投資のご案内」では相変わらず口数は増えて分配金が出ている。この「収益分配金再投資のご案内」は事実を伝えているといえば確かに伝えているが、伝えている相手に実態が正しく伝わらないように不誠実な伝え方をしていると言わざるを得ない。「不誠実な真実」ともいうべきで、巧妙といえば巧妙であり、頭のよい人間が考えそうなことである。詐欺みたいなお知らせである。
 仕事が忙しかったこともあり、解約をせずしばらく様子を見てしまった。翌年になって、アメリカに端を発した金融恐慌で株価が一挙に下落したのにともない私の損失額もさらに増え、とうとう元金の半分以下になりそうになった。M銀行からはこの異常事態になっても何も言ってこない。ついに意を決して解約することにした。解約手数料も引かれて戻って来たのは元金の半分以下の金額であった。泣くに泣けない心境であった。
 私の担当のH氏は他支店に異動したという。H氏から一言の弁明の挨拶もなかった。
 投資信託は預金ではなく、増えることもあるし、減ることもあるという投資だった。
 素人が十分な説明を受けずに投資信託なんてハイリスクなものに手を出したのがいけなかった。
 M銀行を恨んでも仕方ない。金融機関はそのようなものであることを承知しておきながら甘い話に乗ってしまった自分が一番良くない。
 皆が皆、私のように損するわけではないと思うが、損する人の方が多いと思う。投資信託に投資することの怖さを知っていただこうと思い、私の失敗談を長々と述べてしまった。

 超低金利時代となった今、退職金の入った人を金融機関は鵜の目鷹の目で狙っている。 私にM銀行からアプローチがあったように、退職金が振り込まれた方には金融機関から「是非お会いしたい」、「資産形成のお役に立ちたい」というお誘いが来るかと思う。そしてそこで甘い話を聞かされる。私のように不用意にそれに乗ったら大変なことになる。
 昨年発表された金融庁の調査では国内29の銀行で投資信託を購入した個人客について、購入時と2018年3月末時点での評価額を比較、集計した結果、実に客の46%の運用損益がマイナスであったという。もっと多くの人が損していると思ったが意外な数字だったが、今の安倍内閣の発表する数字は嘘だらけだから本当はもっと多くの人がマイナスになっていると思う。
 金融庁の勧めるiDeCoについて、全日本年金者組合東京都本部の芝宮副委員長が週刊新潮誌で「私の体感ではiDeVoの利用客のうち、8割は元本割れをしていると思います」と語っている。
 金融庁の報告書がクローズアップされてから非常に多くの人が儲かると言われる金融商品に投資することに真剣になっているようだ。社会人向けに金融経済教育を行うというファイナンシャルアカデミーが6月17日に「老後に2千万円は本当に必要か」をテーマに開いたセミナーには、当初予定の36人を大幅に超える144人が参加したという。
 インターネット専業証券では、個人投資家の動きが活発化しており、そのうちの一つ楽天証券によると個人型確定拠出年金iDeCoの申込数は報告書発表後に約2倍増え、6月24日に開催したオンラインセミナーは昨年実施した同様のセミナーに比べ3~4割多くの人が視聴したという。

 あの手、この手で騙そうとしている悪徳金融業者もあるようなので、相当用心しないと泣きを見ることは必至である。
 たまたまネットで検索してみたら、そこに100万円預けると1年で7万円の金利が付くという金融商品が紹介されていた。200万預けると14万である。今の低金利の時代、そんなうまい話は絶対ない。最初の1年目は7万円付いたとしても、それに気をよくして、400万円、さらに500万円と預けるお金を増額していくと、ある日、突然、その業者は潰れてしまい、責任者は行方不明ということになりかねない。

 大手証券会社Nの営業マンが「元金保証で1カ月で3%の金利が付きます」と言ってきたので、ついその甘い話に応じたため退職金と相続した財産7300万円を根こそぎ騙し取られた被害者Aさんの記事をつい最近目にした。
天下のN証券だからといって騙さない保証はないという嫌な時代になって来た。
郵便局だからということで信用して加入した生命保険がとんでもないことなっていたと大騒ぎになった日本郵政もNISA・つみたてNISA及び投資信託をお客様に勧めているようだが、郵便局だから悪いことを絶対しないという保証はないので、やはり慎重を期すべきであると思う。

 今や大手であろうと中小であろうと金融機関は美味しいカモを虎視眈々と狙っている。
 でも、何とかしないと老後が不安だという人も多いかと思うが、デフレの今日、デフレに強いのは現金だというので、金利はまったく付かなくても、銀行預金で持っているのが、一番トクな手段だと思うので、今はいたずらに動かないのがよいのかもしれない。
 とにかくうまい話には気をつけていただきたいと切に願うばかりである。
      
posted by 今井繁之 at 12:59| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする