2018年04月04日

「伝えた」から「伝わった」とは限らない     

 
 「伝えた」ということと「伝わった」ということはイコールではない。「伝えた」からといって相手に絶対「伝わった」とはいえない。
 相手がどんな人なのか、どんな思いがあるのかをじっくり見極めて、どのような言葉使いをしたら相手の心に届くか、当方の伝えたい内容を受け止めてもらえるかを十分考えてから伝え始めれば、間違いなく相手にこちらの思いは正しく伝わる。
 そうでないと、肝心なことが伝わらず、無用なトラブルを発生させてしまう。
 相手の理解のレベルに合わせて話せば、相手の心を引きつけることができるが、その逆であると相手の反感を買ってしまうことがあるので要注意である。

 伝えるという点ではこの人の右に出る人はいないと私が思っている人に「ジャパネットたかた」の前社長の高田 明さんがいる。
この人は東洋経済新報社から『伝えることから始めよう』という著書を出しているが、同書で高田さんは「私は何よりも心掛けていることは、上手くではなく、分かりやすく伝えることです」と述べている。さらに「私はラジオ・テレビショッピングでは難しい専門用語を使わないで、できるだけやさしい言葉で話すようにしていました。例えば『カメラのピントを合わせて』」と普通に言ってしまいますが、私はそうは言いません。代わりに『距離を合わせる』と言います。『ズーム』という単語も使わずに『遠くのものを近づかなくても大きく撮影できる』」と説明していました。『コンパクトカメラ』とも言いませんでした。『名刺くらいのサイズのカメラ』と言いました」と述べている。
 このように平易な言葉を使用するのは、伝えたい当の相手を強く意識しているからであると言う。「ジャパネットたかた」のお客様の多くはシニア世代が多いのでその人達に伝わるような言葉を使用するように心掛けているということである。
「ジャパネットたかた」の取り扱い商品が沢山売れる秘訣は高田さんの言葉の使い方にあると思う。

 相手が分かる言葉遣いをすると相手の共感を得ることができると述べたが、話の始めに、相手の心に届くような呼び掛けをすると相手を自分の味方?にすることができる。
 ワールドカップ・アジア予選で日本の出場が決まった2013年6月4日、渋谷の駅前に集まった熱狂するサポーターに警視庁の機動隊広報係に所属する男性隊員がユーモアを交えた呼び掛けをしてサポーターを味方につけた。
 この男性隊員は「皆さん、ワールドカップ出場 おめでとうございます。私達もワールドカップ出場を喜んでいます。こんな良き日に私達は怒りたくはありません。私たちはチームメートです。どうか皆さん、チームメートの言うことを聞いて下さい」と自分達警察官もサポーターの皆さんと同じように喜びを感じているのだと歓喜しているサポーターに共感を示し、仲間であると伝えた。そして「サポーターの皆さんは12番目の選手でもあります。ルールとマナーを守ってフェアプレーで今日の喜びを分かち合いましょう」と呼び掛け、さらに「怖い顔をしたお巡りさんもいますが、皆さんが憎くて怖い顔をしているわけではありません。心ではW杯出場を喜んでいるのです」とユーモアを交えて話した。
 このことによって当日、一人の逮捕者やけが人も出さず、大きなトラブルを起こさなかったことで、この人は「DJポリス」と呼ばれるようになった。
 もし、この時、杓子定規な「こちらは警察です。皆さん、ルールとマナーを守りましょう」というストレートなお願いであったら、興奮しているサポーターに反感を持たれたかもしれない。
 サポーターの皆さんに警察官である自分達は皆さんの敵ではなく味方である、仲間であると思わせる呼び掛けが功を奏したということである。

 声に出して呼び掛ける場合だけでなく、文字にして伝える場合も、相手の心を捕らえるような表現をしないと、相手の心を動かすことができないことがある。ところが相手の琴線に触れるような文字にすると、相手の心を動かすことができる。
 少々以前の話で恐縮だが、ソニーの創業者である故井深大さんが、かつて、あるところで、次のようなことを語っている。
 「自分がソニーの社長をしていた時、最新鋭の設備を備えた厚木工場に世界中から見学者が来て案内したが、一番頭を痛めたのは便所の落書きであった。会社の恥だからと工場長に落書きをなくすよう指示を出し、工場長も落書きをしないようにという通知を徹底して出した。それでも一向になくならなかった。そのうちに「落書きをするな!」という落書きも出て、しょうがないと諦めていた。するとしばらくして、工場長から電話があり、『落書きがなくなりました』と言う。『どうしたんだ?』と聞くと『実はパートで来てもらっている便所掃除のおばちゃんが蒲鉾の板2,3枚に“落書きはしないでください。ここは私たちの神聖な職場です”と書いて、便所に貼ったんです。それでピタッとなくなりました』と言います。私も工場長もリーダーシップは取れませんでした。パートのおばちゃんに負けました。私はリーダーシップは上から下への指導力、統率力だと考えていましたが、それは誤りでした。リーダーシップは影響力だということが分かりました」
 「落書きはしないでください」「落書き厳禁」といった強い調子の呼び掛けより、平易ではあるが、相手の琴線に触れるような呼び掛けをしたので、相手の心にそれが突き刺さり、かたくなであった相手の心を動かしたと言うことである。 

 「伝えた」が「伝わっていない」のと同じようなことだが、「見えるようにした」が、それを関係者が「必ず見てくれる」とは限らない。
見えるようにしたものが非常に重要な伝達事項であった場合、それを見てくれないと、時には、大変なトラブルに発展してしまうことがあるので要注意である。
 見えるようにしたものが非常に重要な事柄であれば、関係者が必ず見るような工夫をすると共に、その後のフォローを不断に行なうべきである。

 NHKの名アナウンサーであった山川静夫さんが以前、次のようなことを新聞で語っています。
  野球の基本は「キャッチボール」である。キャッチボールをことば通りに解釈すれば 「捕球」であ   る。 球を確実に捕ることである。投げる人が主役ではない。捕る人が主役 である。投げる人はいつでも捕 りやすいところへ投球すべきで、捕球を重視するのがキ ャッチボールの本意であると思う。
  放送の仕事に長年たずさわってきた自分が、今ごろになって不安に思うのは、電波を 通じていろいろな 情報を伝えてきたものの、それが視聴者の皆さんにしっかり伝わった かどうか、ということである。「伝 える」と「伝わる」では大違いで、いくら伝えたつ もりでも、相手に伝わらなければ意味がない。こちら の投げた球を捕球してもらえたか どうかが問題である。捕球する相手は気に入らなければジャンプしてま で捕ってくれな い。「捕れない」のでなく「捕らない」のである。たとえ自信のある球でも、相手が捕 ってくれなければ、キャッチボールにはならない。

 山川さんの言われるように、相手の心に届く、相手が当方の意図を正確に受け止めるような伝え方をしなければ何にもならないので、相手に確実に伝わるように心掛けなければならない。
                          
posted by 今井繁之 at 16:39| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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