2018年08月22日

あれもこれも大事(大事)はよくない


 私の紹介している問題解決の手法では「優先順位をつける」という言葉が随所に出てくる。
 取り組まなければならない課題が複数ある場合、重要度・緊急度・拡大傾向で優先順位をつける、あるいは実現したいことがいくつもあり、どれもこれも大事だとしても、より大事なものはどれかということで、優先順位をつけた方がうまくいくと話している。
 
 ヤマト運輸の元社長の故小倉正男さんのエピソードであるが、ドライバーの運転事故が多くて困っていた時に、労働基準監督署の勧めで、労災事故の少ない事業所を見学した時に、普通の事業所であれば「安全第一」という標語だけを掲げているのに、その労災事故の少ない事業所は「安全第一」という標語と並んで、「効率第二」という標語があるのを見て、これだと思ったという。自社に戻ったところで、安全運行が一番優先すべきことであり、営業効率(スピード)を良くすることはその次で構わないという方針を徹底するために「安全第一」に並べて「営業第二」と書いたポスターを職場に貼ったところ、安全運行が徹底されて、さらに営業効率も向上したということである。

 私は上位者の重要な役目の一つとして、部下が判断に迷わなくてもすむように優先順位を明らかにすることであると思うが、ところが、あれもこれも大事ということで複数あるものに優先順位をつけない上位者が一般的に多い。
 優先順位をつけ難い場合もあるかと思うが、それでもどちらを優先するかという方針・方向を上位者は明確にするべきである。

 優先順位を明確にして見事、成功した具体的事例を紹介しよう。
 現在は第一線を退いているが、かつてソニー㈱の副社長をしていた大曽根幸三さんが、ウォークマンの開発責任者をしていた時の話であるが、大曽根さんはこれはと見込んだ技術者達を呼び、カセットケースを見せて、これと同サイズのウオークマンの開発を命じた。 カセットを入れるのに、それと同サイズのものを作るなんて無理だと、困惑した顔をしている部下に「コストはどうでもいい。1億円かかってもいいから、とにかく1個作ってみろ!」と言う。
 コストはどうでもいいというコスト無視の指示があったので技術者の連中はお金は相当かかったものの、なんとか頑張って試作品を作り、大曽根さんに提出したという。
 大曽根さんは「よくやった」と褒めてから、担当者に「まさか、おまえ、これを1億円で買ってくれる人はいないだろう。どう見たって、30,000円かそこらだな。今度はこいつを30,000円以下で作れるよう工夫してみろ!」という。
 最初に開発を指示された時は作れないと思ったものの、なんとか工夫したらモノはできた。今度はそれを安く作るにはどうしたらよいかということでコストダウンに全精力を注ぐことになる。大変な苦労はしたものの、なんとかなるもので大曽根さんの希望する位の価格で生産することができるようになったという。
 完成品を作ることを最優先、コストは二番目でいいという明確な方針を示したのでこのような結果につながった。
 もし、大曽根さんが「世界初のものを、世界最小の大きさで、それも販売価格30,000円以内に収まるものを作れ」という目標を同時に出したら即座に「できません」という返事が返ってきただろう。
 この大曽根さんの例のように上司が部下に仕事を命じるような時、いくつかの狙いがあればその狙いを同等ではなく、何を優先するかということを明確に示してくれると部下は助かるというものである。

 今では日本を代表する企業に成長したファーストリテイリング(店名ユニクロ)という会社も優先順位を明確にしているので成功したのではないかと私は勝手に推測している。
 私はユニクロが全国区になり始めた頃、ユニクロ商品があまりに安いので、この会社の商品のセールスポイントは低価格であると思っていた。
 ところが関係者に聞くと、最初に低価格ありきではなく、まず高品質な製品を提供したいという強い思いがあり、それをいかにしたら低価格で提供できるかという発想から事業展開をしたということである。
 高級デパート等で10,000円以上で販売しているクオリティの高い品物をどうしたら低価格で提供できるかと考えた時に、大量生産すればコストが下げられるのではないかという考えが社長である柳井さんの頭に浮かんだという。
 その大量生産をするにはどうしたらよいかと考えると、それには男女の性別、老若の年齢の関係なしに幅広い層に着ていただける同一(ユニ)のデザインのものを作れば大量に生産することができる。
 さらにコストを下げるには流通の中間マージンをなくせばよい。中間マージンをなくすには自前で生産して販売と直結させればよい。
 その生産コストを下げるには日本国内ではなく、中国で生産すればよい。
 柳井さんに直接確認した訳ではないが、恐らくこんな具合に考え、実践した結果、代表的商品であるフリースに1,900円という驚異的な価格をつけることができたのではないかと思われる。
 
 一般的にはユニクロの高成長は安くて、いいものを提供しているからと評されているが、柳井さんはその評し方の順序に反発されるのではないかと思う。
 柳井さんはいいものを、安く提供していると言うのではないかと思う。「いいもの(高品質)」が先であり、次いで「安く」という優先順位がついているのではないかと私は勝手に思っている。
 柳井さんが低価格を優先して、品質を二の次にしたら恐らくここまでの成長はなかったと思う。
 今日のユニクロの成功は、「安かろう、悪かろうの商品提供では消費者の支持を長期間に渡って得ることは困難であり、また売れないものをいくら安くしてもだめであり、高品質のものを安くして売らないと顧客がついてこない」という商売の定理を物語っている。
 
 大曾根さんや柳井さんのように向かうべき方向を明らかにして、あれもこれも大事(だいじ)ではなく、どれを最優先で取り組むかという優先順位を示すことは上位者にとって最も大切な仕事であると私は思う。
posted by 今井繁之 at 14:06| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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