2020年12月02日

教え過ぎない方がいい



 私達は仕事に慣れていない時期は上司や先輩から仕事の要領について教えられることが多い。ただ、細部まですべて教えてもらうことが良いかと言うと必ずしもそうではない。
 全てを教えてもらうと自分で考えようとしないことになりかねない。
自分で考えようとしないと成長しないと言われるが、その辺りを具体的事例を挙げて説明する。
 
 プロ野球の世界の話で恐縮だが、次のような話がある。
 プロ野球西武ライオンズ傘下のライオンズアカデミーで子供たちに野球の指導をしている石井丈裕さんは沢村賞も受賞した素晴らしい実績を残した選手だが、現役を引退後、西武ライオンズのピッチングコーチを経て現在の仕事に就いている。
 その石井さんがあるところで、「コーチは教え過ぎないのがいい」と言って次のようなことを語っている。
 私はある程度、プロで実績を残させていただいたので、その技術を子供たちに教えたいという気持ちで最初は始めたのですが、そういう思 いが強すぎても、子供たちはただ聞いているだけになってしまう。自分はこと細かく教えることで子供の成長を促しているように感じていたが、実は子供の成長を邪魔していることに気付きました。過保護・過干渉になり過ぎ、子供たちの創造力を奪い、考えることの妨げをしてしまっている。
これではいけないということで、子供たちに考えさせる指導をすることにしました。
そうしたのは自分には次のような体験があったからです。
プロの世界に入ってコーチから色々と指導されて、コーチに言われた通りやりましたが、言われたことをやるのは大切だけれど、ある程度までいったら、自分で考えないとレベルは上がっていかないことに気付きました。教えられたものは、一応はできる。
しかし、どうしてそうするのかを考えないでやっていると身に付かないことが分かって来た。自分で色々考えてやったことは身に付き、そういったものはいつまでも忘れないということに気付いたからです。

 確かに石井さんの言われる通りだと私も思った。
石井さんと同じようなことを先年、亡くなった野球界のレジェンドのノムさんこと野村克也さんは1980年にお書きになった『敵は我に在り』という著書の中で、監督・コーチから教えられるより多少時間はかかっても自分の頭で考えることが大事であると述べている。
 野村さんはバッティングについては打撃の神様と言われた故川上哲治さんに影響を受けたと言う。
 1955年、大阪球場でオールスターゲームが行われた時、憧れの川上さんが打撃練習をしていたのでネット裏から食い入るようにして見た。そこで不思議な光景に出会った。
レベルスイングの元祖と言われていた川上さんが、前屈みになって体の右側のところで、まるでゴルフスイングのような素振りを繰り返していた。頭の中にいくつもの疑問が沸き、何故だろう、どうしてだろうとその後、1週間考えた。実際に川上さんの真似をしてそのスイングを試した。川上さんがなぜそのようなスイングをするのかが分からなかったが、そのスイングを繰り返していたある日、「あっ」と気が付いた。このスイングをしていると体重が右側から左側にスムーズに移動する。このスイングで体重の移動を体に覚えさせているのだということに気付かされた。自分も体重の移動がスムーズに行かなくて悩んでいたが、川上さんの真似をしていたら上手く行くようになり悩みが解消できた。
 もし、川上さんに質問したらすぐ教えてもらえたかもしれないが、それでは身に付かない。
 自分で考えたので時間はかかったが、でもそのお陰で自分のものにすることができた。
そうやって覚えれば、確実に自分のものになり、それは決して忘れないものである。

 野球の世界の話の連続で恐縮だが、2019年のNHKのスポーツ番組だったと思うが、三冠王を3回も受賞した打撃の名人であり、名監督でもあった落合博満さんが野村さんと同じようなことを語っていた。その番組の中で、2018年、2019年と2年連続パ・リーグのホームラン王になった西武ライオンズの山川穂高選手と対談していたが、山川選手が「自分は××部の球を打つのを苦手としているが、そのコースを打つにはどうしたらよいですか?」と聞くと、落合さんは「そんなことは分からないよ。それは自分で考えなければダメだよ。だって俺とお前とでは体が違うんだから」と言われた。山川選手はどうして教えてくれないのだろうという不満顔?をしていた。この場面を見た方の中には落合さんは不親切だなぁと思われた人もいるかと思うが、前述の野村さんの話と重ね合わせて考えていただくと納得できるかと思う。
 教えてもらったものはすぐ忘れるかもしれないが、自分で考えて得たものは真の力となり長続きする。やはり一流に達した人は共通した考えを持っていると感じた。
 ただ、落合さんに教えを乞うた山川選手の2020年度の打撃成績は本塁打24本、打率は2割5厘と前年,前々年と比して著しく低下した。考え過ぎたのかもしれない。

 私の好きな野球の世界の指導者の話に終始して申し訳ないが、ここで紹介した事柄はどのような世界でも共通することであり、指導者は教え過ぎないことが肝要であり、基本的なことは指導しても、部下の成長を願って、その先は本人に考えさせるように仕向けてこそ、有能な部下が育つかと思う。

posted by 今井繁之 at 16:34| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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